ベーシック・コース開催に当たって

教育の大切さを最初にお教え下さったのは、中学校の担任であった故池田 義守先生でした。厳しさもありましたが、本当に親身になりご指導いただけたおかげで、同級のほぼ全員が志望校に進学できました。それ以降に出会えた多くの先生方からも、その重要性を学びました。
 
すでに確立されたものであれば、先達の試行錯誤を追試する必要はありません。高めて下さった場所をスタート台とすることができます。科学的な証明に乏しい場合を除き、インプラント療法に関しても全く同じことが言えます。1980年代初頭、その治療は専門医、すなわち外科的処置は口腔外科専門医、補綴処置は補綴科専門医と明確に分けられていましたが、幸いなことに技工操作を含めてインプラント療法に関わるすべての術式を習得する機会を与えられました。1983年5月、イェーテボリ大学での留学生活を終えて帰国する時に、故ブローネマルク教授からある言葉を投げかけられました。『現時点で、外科も補綴も理解している人間は君一人なんだから、日本の歯科医師に正しい教育をして欲しい。』結局は、彼の策略にまんまと乗せられたのでしょう。1990年代初頭、コースの内容をブローネマルク教授に説明した際に、『きっと、世界中で一番密度の濃いコース内容だね。』と、またしても煽てられ、その気になってしまいました。
 
ブローネマルク教授のプロトコールを遵守するならば、長期間にわたり良好な結果を示すことが知られています。言い換えるならば、インプラント療法の王道と言えます。この考え方をマスターした上で、“最新”と称される方法を導入することが、ご自身の力を付ける近道ではないでしょうか。
 
業者主導あるいはそれに迎合した講演内容とは一線を画し、歯科医師の側に立つコースと自負しています。
 

 
2016年1月18日 小宮山 彌太郎
 

治療の対象は歯ではなく、
「感情を持った人」

 

トラブルが相次ぐインプラント業界、歯科医療への信頼を揺るがすような報道が後を絶ちません。インプラントの失敗例の多くは、患者ひとり一人の希望や健康状態を充分に診ることなく、「インプラントありき」の早急な判断、その背景にある利益至上主義から引き起こされているといっても過言ではありません。またこの問題には、インプラント治療のそもそもの基本概念と離れた技術偏重という業界全体の傾向も影を大きく落としています。
 
逆説的に言えば、こうした環境下、患者からの「信頼」を獲得するのは、医療者としてのモラルを備え、基本に忠実な「患者主体」の治療が行える歯科医のみです。現状を悲観するのではなく、歯科界の将来を明るいものにするために、志をともにし、心あるインプラント治療を支える人財を増やすべく、このコースを開催することにしました。
 

そもそも、インプラント療法は1分1秒を争うようなものではなく、施術が1か月や2か月遅れても大勢に影響を与えるものではありません。大切なことは、医師がメリット、デメリットを十分に説明をし、患者は治療の内容をじっくりと吟味することです。すなわち、歯科医は治療法のデメリットまでをよく理解し、患者の要望を踏まえたうえで、症例にあった治療を選択することが求められるのです。このことは、インプラント治療を成功させる絶対条件といえます。

近年、度の過ぎた利益至上主義、技術偏重が歯科医師の社会的評価を下げています。インプラント治療において「医療は誰のためのものか」という観点はたいへん重要な意味を持ちます。インプラント治療の真のメリットは、長きにわたり患者の高いQOLを維持し得る、「先を読んだ治療をしやすい」ことにあります。ただし、これは長い臨床実績に裏付けされた、基礎・基本に忠実に適切な治療を行った場合のみに言えることです。将来変わることがある患者の口腔内の状態や、患者自身の希望までを見据えた判断ができるよう、何よりもまず私たちはインプラント治療の原点にあるコンセプトを学ばなければなりません。  
インプラントは保険診療ではないために費用がかかり、手術を受けなければならず、場合によっては時間を要するという3つの短所があります。そのため、インプラントでは、保険診療で定められている治療法では解決できず、なおかつこれらの短所を考慮してでも治療したい場合においてのみ、検討されるべきなのです。また、インプラント治療の失敗は、後々まで患者を苦しめるトラブルにもつながり、取り返しのつかないケースも多く見られます。我々は知識を十分に理解するとともに、「インプラントありき」ではなく、あくまで患者にとっても「最適な治療法」を吟味、選択する技術を身につけなければならないのです。

コース受講を検討のかたへ

本コースの講師、小宮山の著作をお読みいただき、検討の参考にしていただければ幸いです。インプラント治療に長年従事し、多くの臨床経験から得た知見と、これからの歯科医師への提言をまとめた一冊です。